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えるだま・・・世界の国から

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2007年 11月 09日

遥かなる遺産 Part4(2)

「進歩なんて必要なのでしょうか?」とアツーサに言われた平山は答えに窮してしまった。日本という先進国に生まれた平山だが、今の日本がイランよりすべてにおいていいと言えるのかどうか疑問に思えるのである。

平山は思う。人間には欲望がある。平和はもちろん必要だが、誰だって世界各国を旅行してみたいだろうし、文化水準の高い暮らしをしたいだろう。美味しいものを食べたいということもあるだろう。物質欲といえばそうだが、こういう欲望を捨てることはできないのではなかろうか。

問題なのは、進歩している日本だが、そこに住む日本人がそれほど幸せそうでないということである。平山は自分自身を不幸だなんて思わないが、このところの日本の様子はおかしい。正直なところ、イランが発展して、もしも日本のようになるとしたら、あまり嬉しくないのだ。

イラン人の子供たちは、素朴であり、大きな目を輝かせている。そして、親をとても大切にしている。こういうものが日本ではあまり感じられないのだ。もちろん、日本人にとってイランでの生活は、日本に比べれば不自由なことばかりである。

「アツーサ、私たちには知りたいことがいっぱいある。戦争を避ける知恵もそうだし、人間の欲望への対応についても知りたいと思う。宇宙船には多くの知識が集積されているのではなかろうか」
「興味深い話ですが、それにはミニ・シャトルがなければどうにもなりません」
「そうだった。消えたミニ・シャトル、手掛かりはないものかなぁ」
「盗掘されたことは間違いはありません。でも、どこに持ち去られたのでしょう」
「お金が目当ての盗掘なら、知られずに済むはずはないのだが」
「いつの時代でもそうでしょうね」

そんな話をしていると、そこにマジディ部長がやって来た。

「サラーム。ミスター・平山、ハレショマーチェトレー?」(ご機嫌いかが?)
「フバン・メルシー」(元気です)

このくらいのペルシャ語なら平山にもできた。ただし、そこまでである。平山は、アツーサに紅茶を淹れるように頼んだ。マジディ部長が平山のオフィスに来ることは、それほど頻繁ではなかった。平山には、マジディ部長がどんな用件で現れたのか気になった。

しかし、マジディ部長はとりとめのないことを話しているだけだった。そこで、アツーサが化粧室に行くと言って、部屋を出て行った。すると、マジディ部長が小さな声で平山に言った。

「今度、楽しいことをしよう」
「え?楽しいことですか」
「そう、リラックスして過ごすんだ」
「木曜日にアパートに迎えに行くよ」
「はい、分かりました」

マジディ部長は、アツーサには聞かれたくないような感じだった。どこに案内されるのか平山には分からなかったが、マジディ部長の誘いなら断る理由がない。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。

by elderman | 2007-11-09 00:00


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