えるだま・・・世界の国から

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2007年 09月 26日

遥かなる遺産 Part1(3)

平山たちは拝火教の寺院を出たが、外はまだ明るかった。そこで、彼らは拝火教で死者を弔うという鳥葬の塔、別名で沈黙の塔という場所に行ってみることにした。拝火教の寺院の前で拾ったタクシーの運転手は、イラン人らしく愛想が良かった。平山は、一緒に仕事をしているイラン人のマジディ部長の言葉を思い出していた。ヤズドには犯罪者がいないという。

マジディ部長によると、7世紀の頃、マホメットに率いられたアラビア人の軍がペルシャを攻めて、住民に対して、イスラム教に改宗するか、巨額の金を払うか、戦争するかと迫ったという。ヤズドの拝火教の人々はどうしたのだろうかと平山は不思議に思った。

ペルシャにいた拝火教の信者たちはアラビア軍から逃れ、今ではインドに拝火教の総本山があるという。ヤズドの拝火教の信者たちは、一旦逃げて、ほとぼりがさめた頃、舞い戻ったのかも知れない、平山はそう考えた。イラン人は原則としてイスラム教徒であるが、既得権は認められている。したがって、イランにはアルメニア人のようなキリスト教徒もいるし、ユダヤ教徒もいるという。

タクシーは樹木のない荒野を抜け、鳥葬の塔のある場所についた。平山には、鳥葬の塔は直ぐに分かった。小さな岩山を利用したもののようだが、頂上に塔のようなものが見られたのである。そして、岩山の周囲にはぐるりと回るような小道が見えた。

岩山の小道は、舗装などない石ころだらけの道であった。日没にはまだ時間がありそうだったので、平山は頂上まで登る気になった。しかし、女性のアツーサはどうだろう。

「どう、登る?」
「はい、もちろん」
「歩きにくいよ」
「大丈夫」

アツーサの好奇心は相当強いらしいと平山は思った。タクシーの運転手は、ニコニコしながら車のところで待っていると言う。平山たちは、岩山を登り始めた。遠目では、なだらかに見えた小道であったが、かなり傾斜があり、小石のために滑りやすい。アツーサは、それでも一歩一歩登って来た。

急傾斜のせいか、平山は息切れがした。後方にいるアツーサを見るとかなり遅れていた。それでも、彼女は登ってくる。雲ひとつない空、明るい太陽が地平線に近くなっていた。ヤズドの町に灯りが点き始めた。

平山が頂上に着くと、塔への入り口は小さく、大きな段差があった。平山は、その一段目に立てば塔内は見渡せるから、そこでアツーサは諦めることだろうと思い、一人でその入り口を登って行った。塔の中央には、クレーターのような窪みがあって、そこで死者を弔ったと思われた。鳥葬は今では行われていないので、人骨などが残っているとは思われない。

拝火教と鳥葬、その関係について平山には見当もつかなかったが、死者を空に帰すというのはなんとなく理解できるような気がした。実際は、死体が鳥によってあちこちにばら撒かれるだけなのだろうが、鳥によって空に運ばれていったというイメージは持てると思えるのだ。

平山がそんなことを考えながらしげしげと鳥葬の穴を見ていると、アツーサがやって来た。

「え!あの段差を登って来たの?」
「はい、あのくらい何でもありません」
「いやぁ、驚いたなぁ、てっきりあそこで諦めるだろうと思っていた」
「いいえ」

平山は、それなら手を貸してあげればよかったと後悔したが、アツーサは何とも思っていないようであった。

「イランにも幽霊っているの?」
「はい、いますよ」
「アツーサは怖くないの?」
「まだ見たことがありません。墓地にいるそうです」
「へぇ、でも、ペルシャ語で話をされても私には分からないから怖くないだろうなぁ」

鳥葬の塔は墓地ではないからか、アツーサはまったく怖がっていなかった。そうしているうちに、日は沈み、辺りがすっかり暗くなって来た。鳥葬の塔からヤズドの町の灯りが綺麗に見えた。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。

(参考)鳥葬の塔
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by elderman | 2007-09-26 05:50


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