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えるだま・・・世界の国から

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2007年 07月 25日

国際協力の現場(1)相手国の事情

国際会議において、開発途上国であっても、その国の大臣や局長の堂々たる説明を聞いていると、それなら日本からの国際協力なんて不要じゃないかって思いたくなってしまいます。日本人はどちらかというと、そういう席でのスピーチが苦手ですから、メモすら見ないで朗々と説明するのを見ていると一層立派に思えてしまいます。

国際会議ですから、「そんなことを言ったって、実際には信頼できる測定データすら持ってないじゃないか」なんて本当のことを言う人はいません。この部分が開発途上国のウィークポイントなんですけどね。では、どうやって日本への技術援助が求められるのでしょうか。その辺から、お話しして行きたいと思います。

言い方は悪いですが、どんな開発途上国でもプライドや自信は強いものです。「ないのはお金だけ」というのが偽りのない気持ちでしょう。経済大国でかつ技術立国である日本側としては、開発途上国の頼りない技術力に対して技術援助を行うことは積極的なのですが、本音での話はなかなかできるものではありません。

もちろん、公式の場所でなければ、大臣や局長クラスの人たちも本音を話してくれますが、それでもそれがオープンになるのは困るとしたものでしょう。となると、客観的な数値などが意味を持って来ます。例えば、測定装置や分析装置などの台数ですね。ちゃんとやっているけど、不足しているという筋書きが必要になるという訳です。

必要な技術援助は惜しまない日本側ですが、要請を受けたからと言って、100%要請に応えることができるとは限りません。開発途上国の経済状態に応じて、対応が変わります。最貧国に近いランクの国に対しては、建物と機材、それからプロジェクトチームと専門家の派遣を行うでしょう。もうちょっと開発の進んだ国の場合は、建物は相手国の負担とし、日本側は機材とプロジェクトチームを派遣するということになるでしょう。先進国に追いつきそうな国に対しては、機材の供与はできないので、専門家派遣という技術援助なら協力しましょうということになるかも知れません。

日本側の技術援助はそんなものですが、開発途上国の人たちの一般的な考えはどうでしょうか。日本側の技術援助を受けたことのある組織だと、かなり日本の援助システムを知っているようですが、一般的に要請手続きなどについてはそれほどは知られていないと思います。

日本政府に対する要請書は、唐突に現地の大使館に上げられる例というのは少ないと思います。話が形になるまで、両国の担当者レベルの折衝があり、大きな案件については日本側もチームを作って臨むことになります。

では、折衝に入るもっと前の段階はどうでしょうか。日本へ技術援助を要請するという根っこの部分のことです。開発途上国には、「ないのはお金だけ」という発想がありますから、まずは日本に対して資金面での援助を期待しているはずです。資金の調達なら、ワールドバンク、アジア開発銀行、国際協力銀行などがありますが、そこを頼るにはかなり高位での意思決定が必要ですし、審査もあります。しかも、返済しなければなりませんから大変な話です。石油資源のある国なら、比較的簡単に話を進めることができるでしょうが、普通の開発途上国では簡単ではないと思います。

そこで、日本側と話を進めるうちに資金援助ではなく、機材提供を伴った技術移転という方向に話は向かっていくことになるでしょう。日本側からの提案は、機材と専門家派遣というセットになります。機材だけ渡しても使えないのではしょうがありません。

なぜ、このところを強調したかと言うと、相手側の気持ちと日本側の気持ちのズレがあるからです。相手国にとって高価な機材はありがたいものです。しかし、一緒になって派遣される専門家はそのおまけ的なもの、取り扱いを教えてくれる人というような存在で受け止められがちだからです。

日本側が考える、機材供与よりも技術移転ということが大事なのですが、ここで少しズレが生じていることが多いと思います。ソフトよりハードというのは、日本側にもあります。「箱もの」なんて表現があるように、ハードは目に見える技術協力として捉えやすいからです。昨今、供与機材が活用されていないという批判があるので、日本側としてハード優先という訳にいかなくなっているのが現状だと思います。

相手国側の事情についてもう少し踏み込んでみましょう。日本側の大使や行使が相手国の大臣や局長と話をして、日本側の援助を求めたとすると、それが引き金になって日本側が動くということはあるでしょう。大使館の書記官のネットワークを通じて、どういう技術援助が相応しいのか検討され、協議の場が設けられるようになると思います。

では、大臣や局長が相手国の震源地でしょうか。冒頭に書いたように、彼らはそれほど問題意識を持っているとは思えません。それだけの地位の人たちだと、現場のことなどほとんど知らないものです。上がってくるレポートで彼らなりに判断しているか、いいアドバイザーがいるのが普通でしょう。

私は、この「いいアドバイザー」辺りが怪しいと考えています。この人をA氏としましょうか。A氏は日本側の国際協力について割り合い詳しいと思います。多分、以前に日本側からの技術援助を受けたことがあるとか、研修コースに参加したことがあるとか、大使館関係者と親しいとか、何かの接点があるはずです。

この人たちが直接話を日本側に持ち込むこともあるでしょう。アンテナの高い人ということでは、大いに敬意を払うべきでしょうが、純粋に自国の技術レベルに対して問題意識を持っているのかどうかは、本人にしか分からないことだと思います。

A氏のような人は、大抵英語が堪能です。日本だけでなく世界の国々の情報にも精通していることと思います。高学歴であり、英語能力も優れている、そうなると当然野心もあります。日本側の良心的な技術援助をその野心のために利用しようという気持ちがあると、いずれ問題が出て来ます。

一方、日本側は話の分かる人をパイプにしがちです。英会話能力がない人をパイプにしたのでは話が進みませんから、ついつい社交性があり英会話能力のある人のところに話を持っていくようになります。技術屋の世界では、こういうタイプはあまり実力や人望がないとしたものなのですけどね。もちろん例外はありますけど。

現在では、要請案件に対して事前調査が行われることが普通だと思いますが、これにしても現地で情報を集める人(大抵はコンサルタント)は、同じように英会話のできる人を頼りにしがちです。短期間滞在しただけで相手国の裏事情まで分かるというのは至難の業でしょう。

こういう野心を持った人が、プロジェクトの相手側のC/Pという地位を与えられたらどうなるでしょうか。結果は直ぐに出ると思います。機材の種類、数がそういう人たちにとっては重要で、技術移転そのものはまったくおまけになってしまいます。プロジェクトの目に見える部分が彼らの実績と評価されるからです。

精力的に仕事をするという点で野心が活かされるならいいことだと思います。プロジェクトのC/Pとなった以上、自国への技術移転がきちんと行われ、技術が定着することに身を惜しまず働いてくれるというのが望ましいというものです。最悪のケースでは、C/Pになって自分への利益誘導という浅ましい例もありましたけど・・・

(注)C/P:カウンターパート、この場合、プロジェクトの日本側の責任者と同じポジションになる相手国の責任者

(つづく)


by elderman | 2007-07-25 00:05 | えるだまの観察


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