えるだま・・・世界の国から

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2007年 11月 27日

遥かなる遺産 Part5(6)

平山はいつものように5時半に起きた。早起きのようだが、実際の理由は日本との時差にある。インターネットで日本人との交信はできるのだが、イランで夜の9時頃になるとみんなが就寝してしまうのだ。おやすみの挨拶で自分まで眠くなってしまい、早く眠る習慣が身についてしまったのだ。

書斎から見えるアルボルズ山脈を眺め、のんびりした朝を過ごすのが日課であった。アライーの運転する車は8時まで現れない。

そうしていると、足元がゆっくりと大きく揺れ始めた。地震だ。アパートの構造のせいだろうが、非常にゆっくりした気持ちの悪い揺れである。揺れは次第に大きくなった。平山は10階に住んでいるが、地震のときにエレベータを使う訳にもいかない。飛び降りるには高過ぎた。

逃げ場のない平山は覚悟した。こうなったら他のビルの倒壊でも見てやるぞ、そんなヤケクソの気分だった。平山のアパートは高層ビルで構造がしっかりしているが、普通の5階建てのビルは下から組み上げていく地震にはもっとも弱い構造のものだ。

長い大きな揺れはようやく静まった。平山は急いでテレビのスイッチを入れて、普段はみないイランの番組にしてみた。しかし、日本のように直ぐに地震情報が出ないようだ。

「ミスター・平山、おはようございます」
「おはよう。すごい地震だったね」
「はい」
「あれだと、どこかで大きな被害が出ているんじゃないかな」
「カスピ海の方のようです」
「え!実家は大丈夫?」
「まだ分かりません、電話が繋がらないのです」

平山が地震の情報を得たのは、オフィスに着いてからだった。アツーサによると、震源地はカスピ海らしい。平山は、地震だけでなく、地震による津波を考え、アツーサの実家がますます心配になった。アツーサは携帯電話でようやく現地の状況を知った。幸い、実家の方にはあまり被害はないらしい。しかし、カスピ海沿岸地域の地震による被害は甚大であった。

イランは地震のある国である。テヘランでもいつ地震があってもおかしくない。しかし、5階建てのビルは下から組み上げるタイプのものだし、貧しい人々の家は煉瓦造りである。もしも、テヘランに大きな地震が来たら、数十万人もの死者が出てもおかしくないのだ。

アツーサの携帯電話が鳴った。平山は、何か悪い知らせかと思った。しかし、電話から岡野からだった。

「カスピ海で地震だって?」
「うん、アツーサの実家は被害はないそうだ」
「そっか、それは良かった」
「心配してくれていたのか」
「あ、うん、それもあるけど」
「え?」
「宇宙船、どうなったかなぁ?」

平山には、岡野の言いたいことは分かったが、今は地震の被害の援助のためにアルボルズ山脈を抜けるルートは大変だろうし、あの山道そのものの土砂崩れがあるかも知れない。宇宙船のことは、今は考えないようにした。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by elderman | 2007-11-27 01:18 | Comments(0)


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