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えるだま・・・世界の国から

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2007年 10月 31日

遥かなる遺産 Part3(8)

翌朝、平山が目を覚ますと、家の中では何の物音もしなかった。まだ、みんなが眠っているようであった。平山は目が覚めてしまったので、庭に出てみることにした。部屋から出ると、リビングの隅で運転手のアライーが眠っていた。大きな家でもベッドルームには限りがあるようだ。

朝の光の中、外に出てみると、やはりそこは大きな庭であった。大きなフェニックスがあり、ミカンの木、ビワの木などが植えられていた。300坪はあるだろうという広さである。庭には何種類もの花が見られたが、平山には、バラ、マリーゴールド、ストック、ゼラニウム、ナデシコ、キンレンカなどが認識できた。

穏やかな朝は、そこまでだった。平山がのんびりと庭の花を見ていると、家の中が騒がしくなったのだ。アツーサが家を飛び出して来た。平山には何が起きたのか、さっぱり分からない。

「アツーサ!どうしたの?」
「カリムがいないの」

アツーサはそう言うと、裏庭に走って行った。平山は、昨夜早く寝たカリムが、朝早く目を覚まして遊びに出たのかと思った。しかし、事情は違ったようだ。アツーサは直ぐに裏庭から戻って、平山に訊いた。

「ミスター・平山。玄関の鍵はかかっていましたか?」
「いや、開いていました」
「そうですか・・・」
「鍵をかけているのですか?」
「もちろん」
「ってことは、カリムが開けたってこと?」
「そうかも知れません」
「部屋はどうなっているの?」
「カリムがいないだけで何も変りはありません」
「外に出たのかなぁ・・・」

アツーサはそのまま家の中に入って行った。平山もアツーサを追いかけるように家の中に入った。アツーサは真っ青な顔で父親となにやら話をしていた。ペルシャ語の分からない平山は、カリムがみつからないと騒いでいるのだろうと思った。

そのとき、電話が鳴った。アツーサも父親も真剣な眼差しで電話を見た。このとき、平山に悪い予感がよぎった。まさか、誘拐なんて・・・ こんな田舎で・・・

電話を取ったのはアツーサの父親だった。あんなに明るくて、優しいアツーサの父親だったが、電話での話しは沈鬱そのものだった。アツーサも真っ青な顔色で父親の様子を窺っている。やがて、父親は受話器を置いたが、その顔は苦悶に満ちたものだった。あまりにも深刻な様子に平山はアツーサに説明を求めることも躊躇された。

アツーサは父親となにやら話をしている。平山にもカリムのことだろうとは察することができた。その時、アライーが起きて来た。それに気がつくと、父親は愛想だけの挨拶をして、奥の部屋に消えた。アツーサは、無言のまま父親を追って行った。

平山はアライーを見て、自分には何が起きているのか分からないという仕草をした。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。

by elderman | 2007-10-31 02:54


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