えるだま・・・世界の国から

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2007年 10月 28日

遥かなる遺産 Part3(5)

マジディ部長は平山をベランダに誘った。別荘は小高い丘の上にあって、ベランダからは山村を見下ろすことができた。ベランダには鉄製の手すりが設えてあった。平山が周囲を見渡すと、小高い丘にいるとはいえ、周囲の岩肌を露わにしている山々はさらに1,000m以上も高いようだ。遠くの山には万年雪が見えている。

(参考)アルボルズ山脈の中にある山村
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山村の家々をみると、村人だけではないようだった。大きな庭を持つお金持ちの別荘のようなものが見えた。平山は、イラン人のお金持ちってどういう人なのか考えをめぐらした。商人なのか、政治家なのか、土地成金なのか、もちろん知る術はない。

「ミスター・平山。静かだろう」
「はい、とても静かですね」
「都会の喧騒を忘れて自然の中で時間を過ごすなんて、最高だと思わないか?」
「そうですね」
「私は、政府の仕事と大学の講師、それにコンサルタント会社で働いている」
「三つも仕事をこなすなんて大変ですね」
「二つの仕事を持っているのは普通だよ」
「そうなんですか、でも、若い人たちには仕事がないのでしょ?」
「そうだな、それがこの国の問題だ」

マジディ部長は、ここで大きくため息をついた。

「ミスター・平山。面白いことを知っているかい?」
「どんな?」
「イランは禁酒国だが、禁酒でなかったパーフレビ王朝の時代よりも阿片中毒者の数が増えている」
「仕事にありつけない若い人たちが阿片中毒になるというのは、大きな社会問題ですね」
「この国の平均年齢を知っているだろう?」
「はい、30歳以下の若者だけで70%にもなるようですね」
「男は大学に行こうとしないで、直ぐに金になる商売にばかりに走る」
「それで大学が女子ばかりになるということですね」

平山には、マジディ部長の嘆きが分かるような気がした。問題の多い現状をみて、イランの将来を憂えているのである。平山には、イランのイスラム革命で王様や金持ちを追放した結果、みんなが豊かになるのではなく、反対にみんなが貧しくなってしまったように思えてならない。

谷間の日暮れは早い。陰がどんどん下から上がって来る。空気が次第に冷え始めて来た。

マジディ部長は台所に行くと、太い指で小さなナイフを使いながらキュウリとトマトを調理し始めた。そして、次に、ケバブを焼くために、バーベーキューセットみたいなものをベランダに用意した。燃料は炭である。

マジディ部長は、炭の一塊を小さな金網のバスケットに入れ、石油をかけて点火した。しかし、それだけでは炭が燃え出すことはない。バスケットには1mくらいの針金がついている。マジディ部長は、ベランダで針金の端を持ってグルグルと回し始めた。炭がパチパチと音を立てる。

平山は感心した。なるほど、これなら強風の屋外でも簡単に炭に点火できる。バスケットの炭は直ぐに赤い光を発し始めた。完全に火のついた炭の塊を、バーベキューセットみたいなところに敷かれた炭の上に置いた。そして、ブリキでできた小さな煙突を立てて、イランの団扇で煽り始めた。
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イランのケバブは大きな焼き鳥のようなものだ。マジディ部長は、味付けされた鶏肉の串を炭火の上に置いた。脂身だけの串があり、その脂がしたたり落ちるようになると、それを手に持って丹念に鶏肉になすりつけた。

鶏肉のケバブは、冷凍食品として売られているものだが、炭火で焼いたせいかとても美味しかった。平山は例によってウイスキーを持参していたので、冷蔵庫から氷を出して来て、マジディ部長に勧めた。彼は少しだけ飲んだが、それ以上は飲まなかった。マジディ部長は心臓に問題を持っていると言った。

この晩、平山はマジディ部長といろいろな話をした。どうしてイラン人が拝火教からイスラム教に改宗したのか、イスラム革命がどのように進められたか、イラン・イラク戦争のときのイランの様子、パーフレビ王朝時代の話、英国の介入の話など、話は深夜まで続いた。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by elderman | 2007-10-28 03:29 | Comments(2)
Commented by MAKIAND at 2007-10-29 10:51
なんだか、深刻な問題ですね。
若者が就職したがらないって。
でも、大学が女性ばかりになって、これから女性が支配できるようになればいい方向に向かいそうですが、そうは行かないのでしょうね。やはり男性社会なのでしょうか。
ところで、カバブの料理。ガソリンで火をつけても、カバブはガソリンの匂いはつかないんですか?
団扇がすてきですね。おいしそうです。^^
Commented by えるだま at 2007-10-29 11:01 x
MAKIANDさん、そうですね。
どこの国にも問題はあるもので、イランの場合は、若者の就職難が一番の問題でしょう。
学歴の高い女性もまた就職が大変です。女性の社会進出は大変難しい国だと思います。他のイスラム教の国に比べれば、まだましだという気はしますけどね。
石油の臭いが残ると具合が悪いですから、使用料は少量です。面白い形の団扇ですね。^^


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