えるだま・・・世界の国から

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2007年 10月 27日

遥かなる遺産 Part3(4)

平山は、100kgもありそうな巨漢のマジディ部長の運転する4WDでアルボルズ山脈の山道を走っていた。週末をマジディ部長の友人の別荘で過ごそうという誘いを受けたのだった。テヘランでは、40度近い気温になっているが3,000mもの高地に来ると気温がぐんと下がる。

マジディ部長は、平山が赴任したときには一言も英語を話したことはなかった。今でも、アツーサがいるときは英語で話そうとはしない。しかし、平山と二人になると英語で話しをしてくれた。どうやら、頭の中で言いたいことを英語に翻訳するのが億劫という感じであった。

山道を走りながら、マジディ部長が言った。

「若い頃、この辺りを歩き回ったものだ」
「レンジャーだったのですか?」
「いや、兵役中の話だ」
「ああ、イランでは兵役は義務でしたね」
「あの頃は、痩せていたけどな」

平山は、マジディ部長の痩せていた若い頃の姿を想像することはとてもできなかった。

「ドクター・マジディ。敵兵がこんなところまで来たのですか?」
「いや、いなかったな」
「なんだ」
「訓練の意味があったのかもな」
「なるほど」
「あの頃の上官や仲間は、今頃どうしているかなぁ」

そうは言っても、マジディ部長は当時を懐かしんでいるようではなかった。平山は、あまり思い出したくない体験だったのかも知れないと思った。

やがて4WDは谷間の山村に着いた。マジディ部長は車を止めると、商店の一つに入って行った。食料なら持参しているはずだが、何か足らないものでも思い出したのだろう。平山は、待っている間に周囲を見渡した。すると、直ぐ近くに奇妙な建物があり、そこから湯気が出ているのに気がついた。建物からは太いパイプが突き出していて、そこからお湯が落ちていた。

買い物から戻ったマジディ部長に訊くと、そこが温泉であるということが分かった。イランの最高峰のダマヴァンド山は富士山と同じように休火山と言われている。温泉があっても不思議ではないのだが、平山はイランに温泉があるなんて夢にも思わなかった。

マジディ部長は巨漢のせいだろう、足に問題持っている。平山はできるだけ荷物を持って、マジディ部長と一緒にゆっくりと別荘に向かって歩いた。空気はひんやりと冷たくて気持ちがいい。

小さな橋でせせらぎを渡ると、木につながれたロバが草を食んでいる。

「あ、友達がいる」

そう言ったのは、マジディ部長である。アゼルバイジャン州のタブリーズ出身のマジディ部長の自虐的な冗談であった。イランのジョークでは、トルコ人(厳密にはアゼルバイジャン州の人)とロバとは同じことで、部下のいるときには絶対に言わない冗談である。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。

(参考)イランにある温泉
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by elderman | 2007-10-27 00:03 | Comments(0)


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