えるだま・・・世界の国から

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2007年 10月 21日

遥かなる遺産 Part2(13)

平山が帰宅して夕食を済ませた頃、アツーサから電話があった。話では、アツーサのご主人がルノーで高速道路を走行中にタイヤがパンクしたとのこと。ラジアル・タイヤならパンクしても大事故にはならないのだが、あいにくホイールが変形していて、ラジアル・タイヤが履かせられなかったとのこと。小さなルノーはコントロールを失って、ガードレールに当たり、ひっくり返りながら壁に激突したとのことであった。

ルノーは前後とも滅茶苦茶になり、ご主人は通りがかりの人に助け出されたという。ご主人の意識はあるが、顔面に大きな怪我をしている。生きているのが奇跡だと言っていた。

アツーサのご主人が無事だと知って平山はほっとした。しかし、怪我の様子は大変なようだった。アツーサが働いているとはいえ、ご主人は二つの病院で働いているという。2歳にもならない子供を保育所に預けて共働きをしているのだ。

アツーサは2日休暇をとったが、直ぐに職場に出て来た。全国規模のセミナーは1週間後に迫っていた。アツーサにはその段取り、打ち合わせなどやってもらうことがたくさんあった。平山にとって一番の問題は、セミナーでの通訳である。突然の事故ということもあり、アツーサの代わりがいないのである。

平山の講演の内容はかなり技術的な言葉を使うので、中身が分からない普通の通訳を雇っても的確な通訳ができない。この点については、アツーサもよく分かっていた。セミナーは、4日間連続で予定されていた。通常の状態だったら、平山はアツーサに1週間でも2週間でも休暇を与えられるのだが、このときは事情が違った。

このとき、アツーサは病院と家、保育所、職場を行き来しながら、セミナーという大きなイベントをこなさないといけなかった。平山は、イラン人が家族を大切にすることをよく知っている。そこで心配したのが、アツーサが簡単に仕事を投げ出してしまうのではないかということだった。

しかし、アツーサは違った。看病で夜もろくろく眠れない状態でありながら、かなりのハイテンションでセミナーを乗り切ろうとしていた。平山の通訳をしているときには、迫力もあったし、すごい人だと思った。平山の目には、アツーサが人間の限界を超えて頑張っているように映った。

「アツーサ、大丈夫?」
「はい、今は主人とセミナーの二つのことにだけに集中しています」
「うん、本当にありがとう。大変なときにすまないけど、アツーサじゃないとダメなんだ」
「分かっています」

アツーサの超人的な頑張りで、セミナーは成功裡に終了した。セミナーの開催期間でも、アツーサのご主人は大変だったのである。顔面、腰と手術が続いたのだ。本人が医師ということが不幸中の幸いで、いい医師仲間に面倒をみてもらえたという。

しかし、大変なのはこれからなのだ。ご主人は通常の食事ができないから、半年は流動食を続けなければならない。アツーサは病院に通い、その食事を用意し続けなければならないのだ。でも、アツーサのご主人が生きてて良かった、平山は本当に良かったと思った。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by elderman | 2007-10-21 01:27 | Comments(2)
Commented by MAKIAND at 2007-10-21 07:50
不便な状況では仕方ないとはいえ、アツーサさんてしっかりした方ですね。
Commented by えるだま at 2007-10-21 09:13 x
MAKIANDさん、そうですね。^^
でも、このお話、フィクションですから。^^


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