えるだま・・・世界の国から

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2007年 09月 29日

遥かなる遺産 Part1(6)

岡野の歓迎パーティをやった翌週、平山の秘書アツーサの携帯電話に岡野が電話を掛けて来た。平山は携帯電話を持たないので、アツーサの携帯電話の番号を教えてあったのだ。アパートには電話があるし、アパートを出ればいつもアツーサが一緒にいるからだった。

平山はアツーサの利便を考え、自動車の運転手のアライーを、アツーサの住んでいる地区にいる人から選んだのだった。つまり、朝自動車が平山を迎えに来るときには、その車に既にアツーサが乗っているし、帰りは平山が帰宅したその後、アツーサは家に向かうのだった。

「先日はありがとうございました」
「いえいえ、あのくらいなら毎月やっても問題ありませんから」
「料理も美味しかったし、仲間も楽しい人ばかりですね」
「娯楽のないイランですから、せめてプライベートな時間は仲間で楽しまないとね」
「なるほど、ごもっともです」
「うん、それで?」
「あ、そうだ。もしも、お時間がありましたら、今日にでも私のアパートに来れませんか?」
「仕事が終わればいつも暇だからいいよ」
「そうですか、では、何か食べられるものを用意しておきます」
「ありがとう。6時でいいでしょうか?」
「はい、6時がいいですね」

平山は、4時に仕事が終わると、一旦帰宅し、アライーにアツーサを送らせて、5時半に迎えに来るように頼んだ。アライーは、平山の用件が終わるまで岡野のアパートの前で待っていることになる。

もちろん、平山はアライーに対して夕食代込みの時間外手当を払う。契約の段階ではっきりと説明してあることだったが、イラン人には日本人と同じような精神文化があるのか、もらって当然だというような態度は示さない。いつも、お金なんていいのにと言いいながら、それでもちゃんと受け取っていたのだった。

アライーはアツーサにしっかりと説明を受けているようで、いつも決められた時間にきちんと現れた。平山は、アライーはもっと早く来ていて、どこかで待っているのだろうと思っていた。そのくらい時間には正確だったのだ。そのどこかというのはアパートの駐車場ではない。平山が自分の部屋から外を見ていると、ちゃんと定刻の2,3分前にやって来るのだった。

平山は岡野から教えてもらった住所をアツーサにペルシャ語でメモしてもらい、それをアライーに見せた。テヘランの中では住所だけあれば、だいたいどこにでも行けるようであった。岡野のアパートは平山のアパートからそれほど離れてはいなかった。ただ夕方になるとテヘランの渋滞がひどくなるので、昼間15分で行けるところでも30分かかってしまうことは普通である。

平山は、以前岡野の前任者である永井氏のアパートに招待されたことがあるので、初めてではなかったが一回で覚えられるものでもないし、その時の運転手は現在の運転手とは違っていた。なんとなく見覚えのあるアパートに着いたが、平山にはどの階だったのか思い出せなかった。

入り口にはインターフォンのスイッチがあるが、どれを押していいものか躊躇していると、その様子をみたアライーがやって来て、住所とインターフォンの番号をみて、ボタンを押してくれた。ペルシャ語で返答があったらアライーに答えてもらうしかないところである。幸い、ボタンに間違いはなく、聴こえて来た声は岡野のものであった。

平山はアライーに待ってもらい、岡野の説明どおりにエレベータに向かい、指定の階のボタンを押した。エレベータに乗っても、一回来ているはずなのにどうしても思い出すことができなかった。誰か日本人の後について来てしまったのかも知れないと思った。

エレベータから出ると、部屋が3つあるようだった。そのどれなのかも思い出せない。帰りは酔っ払ってしまっていただろうし、入るときも誰かの後についていたなら記憶に残らないものだろうと思った。平山は、なんとなく勘だけを頼りに一つの部屋のボタンを押した。

ドアが開くと、幸いにも岡野の顔がそこにあった。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by elderman | 2007-09-29 06:17 | Comments(0)


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