2007年 09月 24日

遥かなる遺産 Part1(1)

テヘランに向かう飛行機がヤズド空港に到着した。待合室から見える滑走路の周囲には雪が見えている。出張でヤズドに来ていた平山辰夫は、とっくにチェックインを済ませて、秘書のアツーサと一緒に帰りの飛行機を待っていた。飛行機の乗客が降りてしばらくするとアナウンスがあった。平山にはペルシャ語は分からない。

「アツーサ、何てアナウンスだったの?」
「飛行機に故障がみつかったと言っています」
「そう?それで直るのかな?」
「今、修理しています」
「どこの故障だろうねぇ?」
「エンジンみたいです」
「そうか、エンジンの故障というのは重大だね。気がつかないで飛んでいたら問題だったね」

平山とアツーサは、冗談などを言いながら待合室でそのまま待ち続けた。とっくに搭乗時刻になったにも拘わらず、搭乗のアナウンスはない。待合室から故障した飛行機が見える。修理用の自動車なのだろう、パンタグラフのようなものが伸びてエンジンにエンジニアが届くようにしている。

再びアナウンスがあった。そして急に待合室にいた乗客たちがざわめき始めた。

「今度のアナウンスは、何だって?」
「エンジンが直らないので欠航にするということでした」
「え!じゃぁ、次の飛行機のチケットに変更しないと」
「はい、行って来ます」

アツーサは、平山のチケットを持ってチケットカウンターの方に向かった。しかし、平山たちと同じように待合室で待っていたイラン人のアクションは早かったようだ。カウンターに向かった人、さっさと飛行場から出て行く人、さまざまであった。しばらくして、アツーサが戻って来た。

「どの飛行機も満席で明日まで空席はないそうです」
「そう、それは困ったね」

平山の台詞には少し実感がなかった。単身赴任でイランに来ている平山だから、帰りが延びてもあまり影響はないのだ。しかし、アツーサは違った。まだ2歳にもならない子供がいるので、1泊の出張でも大変だったのだ。1泊はご主人の協力を得ての出張できたが、2泊という訳にはいかない。

「アツーサ、なら、タクシーでテヘランまで帰ろうか?」
「テヘランまで行ってくれるタクシーなんてありません」
「そっか、なら、近くの町まで行って、そこからまた別なタクシーというのは?」
「そこでタクシーがみつからなければ、動きがとれなくなります」
「そっか、確かに・・・」

飛行場にはもう人影が少なくなっていた。キャンセル待ちを期待して飛行場に残る人もいるが、諦めて飛行場から出て行った人が多いのだ。アツーサは必死でテヘランに帰る方法を考えていたようだが、携帯電話で話をした後、言った。

「仕方がありません。明日まで待つことにします」
「そっか、ご主人、大変だね」
「ええ、でも、親戚が助けてくれますから、大丈夫です」
「なるほど、いざとなると親戚が助けてくれるんだ。イラン人には100人も親戚がいるからいいね」
「テヘランには少ししかいませんけどね」

平山とアツーサは、飛行場からタクシーに乗ってヤズドの町に引き返した。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by elderman | 2007-09-24 15:23 | 日々の雑感


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