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えるだま・・・世界の国から

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2005年 10月 19日

天使の都(12)

ミーが私をサンデーマーケットに案内すると言い出した。サンデーマーケットというのはいわゆる蚤の市のようである。その場所は飛行場とバンコクの間にあり、通勤途中に通過して話題になったことがあったのだ。

週末になると彼女は珍しく遅れずにホテルにやって来た。タイ人の遅刻のエクスキューズ(言い訳)はいつもトラフィック・ジャム(交通渋滞)と言うので、遅刻の理由を聞くのにはまったく意味がない。ミーは蚤の市に行く割りには小綺麗な格好で来た。

サンデーマーケットに着くとミーは言った。

「ハナイさん、スリに気をつけてくださいね」
「そうだね、すごい人混みだね」

体が擦り合うような雑踏であった。小さな店には安物ばかりが売られていた。私にはこれと言って買いたいものがある訳ではなかったが、海パンツの上にはけるようなショートパンツがほしいと思った。結局50バーツ(約150円)のショートパンツを買ったが、この値段なら色落ちもするだろうと覚悟したものだった。

これと言って買うものがないので、私たちはタイの代表的な果物であるマンゴスチンを食べたりして時間を潰した。ミーはココナッツ・ジュースが好きである。ココナッツの身の頭部分をカットしてもらい、最初はストローで内部の液体を吸う。最後はスプーンで内壁の白いココナッツを削って食べる。私は好奇心から少し液体を吸わしてもらったが青臭い匂いが気になって好きにはなれなかった。

ミーがこれからウィ・マン・メークに行こうと言い出した。私にはそれが何だかさっぱり分からない。バンコクの観光地を少しでも下調べしてあればよかったのだが、実はあまり観光には興味がなかったのだ。ウィ・マン・メークは王様の別荘地のような場所であった。大きな建物もあるが、今は王様は使ってないようで、公園のように利用されているようだった。大きな屋根の下でタイダンスを踊っている女性たちがいた。

「私もタイダンスやったことがあります」
「へぇ、そうなの?」
「学校で必修科目だったの」

ミーはそう言うと、手の甲を腕の側に曲げてみせた。90度を超え、45度を残すくらいまで見事に曲がるのだった。私がやってみるとせいぜい90度であった。まだ関節の柔らかい小学生のうちに訓練したのだそうだ。男性がその形をやると滑稽にみえるが、女性がその形をとると美しくみえる。

その晩、私はミーをシェラトンホテルのレストランに誘った。そこでタイダンスが見られるからである。シェラトンホテルのレストランはビュッフェ・スタイルであり、予約しないでも良かった。夜のチャオプラヤ川を見ながら屋外で食事をし、タイダンスをみることができるのだ。値段は一般のタイレストランに比べれば大分高い。私は奮発してモエエシャンドン(シャンパン)のハーフボトルを注文した。バンコクの物価は安いがシャンパンは非常に高い。ハーフボトルで5000円もしたのだった。

シェラトンホテルのタイ料理は気が抜けたような味がした。ミーも美味しいとは言わなかった。それでも焼いたロブスターやカニは美味しい。タイダンスは仮面を被った善悪の象徴とされる登場人物が戦うというストーリーのようで、チャンバラシーンまで用意されていた。美しいというよりもむしろ滑稽な感じのダンスであった。

我々の隣では白人女性が大きな口を開けてシーフードを頬張っていた。日本人観光客も少なからず見かけた。

(つづく)

(この小説はすべてフィクションです。もしも類似する人物、機関があったとしても本小説とは何の関わりもありません。)





天使の都(12)_e0031500_1814782.jpg


by elderman | 2005-10-19 00:13


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