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えるだま・・・世界の国から

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2005年 10月 14日

天使の都(4)

ポーンティップ所長の英語は極めてスムースで発音も綺麗だった。40歳くらいだろう、自信を持っているせいか、発言には余裕すら感じさせられた。私には彼女の第一印象国の研究機関の研究者であるというよりもむしろ行政官のようなあるいは外交官のようなちょっと異質な雰囲気が感じられた。私は世才に疎い、だから違う臭いを持つ人間を嗅ぎ分けることがある。

挨拶が終わった後も、私はポーンティップ所長の会話に何か異質なものを感じていた。話し方は丁重であったが、この研究機関に私が派遣されたことに不満があるように感じたのだった。この時、私にはその理由が分かるはずもなかった。

所長への挨拶を終えると、私は日本人専門家の執務室へと案内された。実を言うとこの「日本人専門家」の執務室というのが存在することがそもそも私には奇異に思えたのであった。技術移転のために日本人の専門家がこの機関に派遣されているのである。日本人専門家が揃って一緒に執務室にいるというのは少し妙なのだ。

つまり、技術移転にはカウンターパートという相手国代表の担当があり、その担当者に技術移転をするのだから専門家の執務室は同じか、またはごく接近して存在すべきものだと私は思っていたからである。ここの研究機関では日本人同士が日本の組織で働いているかのごとく一緒の執務室にいるというのだ。私は少し首を傾げた気分だった。

その日本人専門家の執務室に入ると、そこには3人の専門家がいた。他に2名の専門家がいるそうだが、研究室に出ているとのことであった。部屋にいた3人の専門家は、溝口専門家、福田専門家、岩井専門家であった。溝口専門家は大阪府から、福田専門家と岩井専門家は民間コンサルタント会社からだった。

どの専門家も暖かく私を迎えてくれた。これから3か月を一緒に過ごす同僚であり仲間である。いろいろな人間がいるものだが、できれば楽しく過ごしたいものだ。私は自分の机に案内された。するとしばらくして運転手のソムチャイが飛行場から積み込んだままの私の携行機材を車から降ろして運びこみ始めたのだった。

私はすこし落ち着いた頃を見計らって溝口専門家に話しかけた。

「この執務室ですけど、日本人専門家が一緒にいるというのは少し変ではありませんか?」
「そうなんですが、ここの組織の課の区分が測定なら測定というように作業形態によるもので専門分野による区分ではないのです。」
「ははぁ、そういう理由があったのですか。」

日本の部局の縦割りと横割りとの関係のものがこの組織では完全に違っていたのである。「日本政府が無償供与した案件ならば、日本のやりやすいように組織だって作ればいいものを・・・ ここは何かがおかしい。」というのが私の第一印象であった。

実はこのプロジェクト、私が聞いているだけでもいろいろな噂があった。少し前まで数多くある日本人グループの視察を断っていたという話しさえ聞こえてきていたのだった。つまり、上手く行っていないプロジェクトというレッテルを貼られたプロジェクトだったのだ。

普通はプロジェクトの専門分野の人がリーダーをやるものだが、このプロジェクトは違っていた。黒木リーダーの人柄のいいのは初対面でも分かったが、彼はこの研究機関の分野とはまったく専門外の人なのだ。

(つづく)

(この小説はすべてフィクションです。もしも類似する人物、機関があったとしても本小説とは何の関わりもありません。)

by elderman | 2005-10-14 02:27


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